2026年度 10月 園長だより
「やってみたい、のその先に…」
先日、やなせたかしさんの短編集『十二の真珠』を読みました。『アンパンマン』の原点ともいわれるこの作品には、どこか切なさを感じさせる物語が12話 収められています。その中には、戦争と平和について描かれた作品も多くあり、やなせさんが「人はどう生きるのか」ということを深く考えていたことが伝わってきます。特に心に残ったのが「天使チオバラニ」というお話です。自分のためではなく、誰かのために祈ったときに天使チオバラニが現れ、戦争が終わっていくという物語です。自分自身の利益や幸せを願うことは、決して悪いことではありません。けれども、自分のことだけを考え、相手の立場に思いを巡らせることができなくなったとき、身近なところでも、社会でも、争いは生まれてしまうのかもしれません。だからこそ、相手の話を聞き、相手を知ろうとすること、そして、自分の思いも伝えながら、対話を重ねていくことが大切なのだと思います。世界で起きている様々な出来事を見ながら、国際社会のリーダー達にも、対話を通して互いに理解し合い、平和を築いていく姿勢を大切にしてほしいと願っています。
そんなことを思っていたある日、園庭で年長さんの男の子達が、なにやら言い争っていました。鬼ごっこをしている子達と園庭の隅で工事ごっこをしている子達が、ダムとして盛られた砂山について、「転びそうで危ないから壊したほうがいい」「いや、壊さないほうがいい」と、意見が分かれていたのです。私も間に入り、それぞれの思いを聴いてみました。しかし、こども達は少しずつ熱くなり、最初の論点からどんどん離れていきます。なかなかまとまらず、「どうしたものかな…」と思っていたところへ、担任の先生がやってきました。経緯を伝えましたが、すぐには決着がつきません。すると先生が、「じゃあ、一旦それぞれの遊びに戻ろう。そして、困ったことが起こったら、そのときまた話し合おう」と提案してくれました。こども達は、それぞれの遊びへと戻っていきました。その後、大きなトラブルが起こることはありませんでしたが、もちろん、これで終わりというわけではありません。実際、ダムはトンネルとつながり、形を変えながら、今もその場所に残っています。これからどのように展開していくのか見守っているところですが、見方によっては「問題を先送りしただけ」と捉えることもできるかもしれません。しかし、すぐに結論を出すのではなく、いったんその場を離れ、それぞれの時間を過ごす。そして、必要になったときに、もう一度考えたり、話し合ったりする。そんな時間の過ごし方もまた、こども達にとって大切な学びなのではないかと思いました。こども達が一緒に遊んでいると、ときには意見がぶつかります。「自分はこうしたい」「でも、ぼくはこう思う」。それは、自分の思いを持って遊んでいるからこそ起こることでもあります。一方で、幼児期のこどもは、自分の思いを言葉で十分に伝えるには、まだまだ未熟ですから、気持ちを整理するために時間が必要なこともあります。私たちは、けんかやトラブルを単純に「なくすべきもの」と捉えるのではなく、その中にある一人ひとりの思いを理解しようとする姿勢を大切にしたいと思います。そして、「どうしたら一緒に過ごせるだろう」と、こども達自身が考え、少しずつ自分なりに折り合いをつけていけるようになってほしいと願っています。そうした一つひとつの経験もまた、人と関わりながら生きていく力を育む、大切な学びの時間なのだと思います。
9月は雨の日が多く、雨が止むとすぐにでも外へ出て遊びたがるこども達の姿がありました。園庭にできた大きな水たまりに、こども達は躊躇なく入っていきます。水が跳ね、泥がつき、気がつけばびしょびしょです。思わず笑顔になってしまいますが、さらに私が嬉しくなったのは、その後のテラスの様子でした。先生たちが嫌な顔を一つもせず、「いっぱい遊んだね」「濡れちゃったね」と声をかけながら、こども達の着替えを手伝っていたのです。こども達が安心して水たまりに入っていけるのは、「濡れても大丈夫」「困ったら先生がいる」という安心感があるからなのかもしれません。ただ、こども達の「やってみたい」は、いつも大人にとって都合のよいものとは限りません。服が汚れることも、時間がかかることもあります。それでも、その気持ちを大切にして、なんとか具現化を試みる。たとえ、それがかなわなかったとしても、そこから発見が生まれ、考えることが生まれ、友達や先生との関わりが生まれます。「やってみたい」を大切にしてもらった経験は、別の道を探していく力につながり、こども達が自分自身と折り合いをつけていく心の土台にもなり得るのかもしれません。そう考えると、汚れ物を洗濯してくれるお母さんたちと、遊びに付き合う先生たちの労を惜しまない姿が、こどもの成長を支えているともいえるのではないでしょうか。心より感謝したいと思います。
そういうわけで、青梅幼稚園では、これからもこども達の「やってみたい」を大切にしていきます。こども達自身が考える時間を待つこと。意見がぶつかったときには相手の思いに耳を傾けること。そして、大人がこども達を信じ、安全に留意しながら、安心して挑戦できる環境をつくること。そうした毎日の積み重ねの先に、こども達の大きな成長と平和な社会があると、私たちは信じています。秋が深まり、園庭や森での遊びもますます豊かになっていきます。今月も、こども達と一緒に、たくさん遊び、たくさん考え、たくさん語り合いながら、楽しい毎日を過ごしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。(園長)

























