2023年度 7月の園長だより
「知ること 感じること」
毎朝、早朝に私は犬の散歩に出かけます。およそ30分の道のりですが、川沿いを歩き、木々の間をくぐりながら愛犬と一緒に鳥の声、川の様子、空の雲、朝陽などに目を向けることはとても楽しいものです。ある朝、川の様子を眺めながら歩いていると、ふいに雨が降ってきました。傘を持って出なかったので顔に小さな雨粒があたるのを感じながら立ち止まりました。と同時に、雨粒の旅路、つまり、海から雲、雲から雨、雨から森、森から川‥‥この水滴(雨)はどこから来たんだろう‥なんていうことに思いを巡らせていました。不思議なことに「雨が降ってきた!たいへん!」とは思わず、誰もいない川沿いの道で、どんどん心が穏やかになっていくのを感じていました。
自然保育を志すものなら大抵の人が読むであろう「センス・オブ・ワンダー」(著:レイチェル・カーソン)という本があります。その本の中に「知ることは感じることの半分も重要ではない」と書いてある箇所があります。自然保育コーディネーターウレシパモシリ代表のケロちゃんも「感性の回路が動き出すとき、知性の回路も動き出す」と言っていました。つまり、なにかを学ぼう(学ばせよう)とするなら、まずは感じることから始めることが大事だよ、ということを伝えてくれています。ついついこどもに「教えてあげよう」と大人はしてしまいがちですが、「おもしろい!」「だいすき!」「なんでだろう?」とまずは感じてもらうこと、そうすると、こどもは「知りたい」、と興味・関心を持つようになります。この順番は間違えないようにしないといけないと思っています。
先日、英語の講師ヴァーノンさんに日常生活の中、英語で話しかけた子がいました。ヴァーノンさんは保育中、英語しか話しません。こども達に英語を教えようとすることもしません。ただ生活を共にしてもらっているだけです(英語の絵本は読んでくれますが)。こども達は日本語で話しかけますが、ヴァーノンさんは英語でしか返してきません。このように生活を共にすることでヴァーノンさんがどんな人なのかをこども達は感じていきます。「おもしろそう!」と思った子はヴァーノンさんと話したくなります。話すために英語を知りたくなります。感じる→知りたいの順番がここにもあります。森の音楽家の金井さんも音楽を教えようとはしません。けれども、楽器を自由に鳴らす中で、大きく鳴らしたり小さく鳴らしたり、言葉ではなく楽器を通したコミュニケーションを取っていました。すると、どうやったら大きい音が出る?どうやったら小さい音が出る?と自ら試行錯誤するこどもの姿がありました。こどもは何かを感じると行動に出ます。私たちは、こどもが始めた小さなことに目をとめて、それにこたえる保育者でありたいと思います。一方で、「知る」ということもとても大切です。感じた後に知ることができると、見る視点が変わり、新たな世界を発見することができるからです。冒頭の雨粒に思いを巡らすなんていうことは、10年前の私だったらなかったかもしれません。自然と共に遊ぶこども達の姿に何回も感動させられてきたその経験が、私を新たにし、新しい世界に気づかせてくれたのだと思います。
2学期からは仮園舎での保育が始まります。こども達の心の中に興味関心が湧き出るような環境を整え、それに答えられる私たちでありたいと思います。そしてこども達の周りに自由と親しみの空間をつくれるよう努力したいと思います。
最後に私の大好きな津守真先生のお言葉をご紹介いたします。
「行動はこどもの願望や悩みの表現であるが、それは誰かに向けての表現である。それは答える人があって意味をもつ。」
「こどもが本当に必要としていることを読み取るのはとてもむつかしい。それには修練を要する。常に自らを新たにする「知」と、相手の身になる「情」とを必要とする」(保育者の地平 著:津守真)
(園長 横山 牧人)