2025年度 7月の園長だより
巣箱から聞こえる「いのちの声」
〜平和を願う心を育む〜
春先、園庭に設置した鳥の巣箱。「どんな鳥が来てくれるかな」と、こども達と一緒に楽しみに観察を続けていました。5月頃には、セキレイやツバメの姿が見られ、巣箱の中を覗くようなしぐさもありましたが、残念ながらそのまま定住には至りませんでした。そんなある朝のこと、6月に入ってから、ムクドリがせっせと巣箱に何かを運んでいる様子を発見しました。「もしかして…?」と、こども達や先生たちと静かに見守っていると、しばらくして「ピヨピヨ…」と、小さな命の声が巣箱の中から聞こえてきたのです。巣箱にひなが生まれたことを知った瞬間、こども達も先生たちも小さく歓声を上げ(驚かせないように)、胸が温かくなる思いでした。鳥たちが巣箱を利用する目的は、ただひとつ…繁殖のため。外敵からひなを守り、無事に巣立つ日を迎えるまで、親鳥は身を挺して子育てに励みます。その姿からは、命の尊さ、そして家族の愛情の深さがひしひしと伝わってきます。今後も、ひな鳥の成長をこども達と一緒に見守りながら、自然の中にある“いのち”の物語を大切に伝えていきたいと思います。
ユネスコ憲章の前文に、次のような一文があります。
「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」
私はこの言葉に衝撃を受け、「平和を願う心を育てたい」という想いを胸に、昨年度よりユネスコスクール加盟に向けたチャレンジをスタートしました。森を活用した自然保育の実践が高く評価され、このたび、1年間の取り組みを経て、国内審査通過の通知をいただくことができました。現在は本申請に向けて、準備を進めているところです。「平和を願う心」は、生まれ持った気質もあるかもしれませんが、それ以上に人との関わりや経験、そして育つ環境の影響が大きいと考えています。特に幼児期に「安心できる」「愛されている」と感じられる環境で過ごすことは、やがて「他者も同じように大切にされる存在である」と感じられるようになるための、かけがえのない土台となります。また、遊びの中で「自分とは違う立場の人の気持ちに触れる」ことは、「自分だけが幸せであればよい」という考えから抜け出す第一歩となります。そしてそれが、「平和を願う心」へとつながっていくのだと思っています。このような視点から見たとき、“わらべうた遊び”には、立場を入れ替えて遊ぶ要素が多く含まれており、昔から人々が大切に伝えてきた遊びの中に、平和を育む知恵が息づいていることに気づかされます。こども達とともに、日々の保育の中で「平和を願う心」を丁寧に育んでいきたいと、改めて感じています。
ところで先日、私は園庭でこども達と遊んでいて、膝を脱臼してしまいました。激痛で動けなくなってしまった私の周りにこども達(主に3歳児)が心配そうに集まってきてくれました。次の瞬間、私の膝に砂をパラパラかけだしたのです。「え…⁉」と思いましたが、痛さで特に何も言えないでいると、さらに泥だらけの手を振り回し泥を飛び散らかす子も現れ、「…な…なんなんだぁ…」と思っていました。救急車で運ばれることになった私ですが、あの時のこども達の行動を振り返ってみると、どれもが私を心配し、「痛いのなおれー」「痛いのどっかいけー」と願ってくれた、けなげな行動だったのだと感じます。言葉ではうまく伝えられないけれど、精いっぱいのやさしさを向けてくれたこども達の心が、何より嬉しく、ありがたく思いました。
森で巨大なミミズを見つけた時、あるいは、登園の時、車の中で見つけたカエルを持ってきた時…。そんな出来事に出会ったこどもたちは、最初は「自分のものにしたい」という気持ちを持ちながらも、最終的には「ここでは生きられないから、元の場所に戻してあげよう」と、自らの判断で行動していました。それは決して、大人に言われたからではありません。こどもたち一人ひとりの心の中に、「命への思いやり」が育ち始めているからに他なりません。こうした日々の何気ないエピソードの一つひとつが、こども達の確かな心の成長の証だと思います。そして彼らがこれから羽ばたいていく未来の世界が、どうか平和でありますように――。私たち大人もまた、こども達とともに、常に「平和を求める心」を持ち続けていたいと、心から願っています。(園長)