健康体育~「脳の可塑性」を生かした運動遊び⑧
「脳の可塑性を生かした運動遊び」⑧
「限界を超える子どもたち」(アナット・バニエル著)から子ども自身の力を引き出すための9つの大事なことの8つ目~「想像すること、夢みること」
「想像する」とか「夢みる」というのは、両方ともに頭の中で行うことなので、「イメージする」と言い換えることができます。
私は大人のあべこべレッスンを行う時に、「動きはイメージですよ!」とよく言います。脳幹が関わる反射の動きとは違い、大脳が関わる動きでは、全くイメージできない動きはできないし、イメージできる動きは簡単にできます。だから、やったことのない動きをする時に、最初難しく感じるのはそのためです。
また「私は体が硬い」という人は多いのですが、「体が硬い」というのもイメージですし、思い込みです。いろいろな経験が重なり、体が硬いというイメージが出来上がるのですが、過去の体験を通してできた全てのイメージの集積を「セルフ(自己)イメージ」と言います。
このセルフイメージは「潜在意識」の中にあるので、普段は意識していません。だから、「体が柔らかい」と思おうとしても無理な話です。できることは、「自分が柔らかくしなやかに動けているとしたら、どれほど軽いのだろうとか、しなやかに動けている感覚はどれほど気持ちがいいのだろう」とイメージし、その時の感覚を想像してみることです。軽い、心地よい、伸び伸びとした、爽やかetcといった感覚は、誰でも経験があるはずです。
子ども達に動きを教える時などは、子ども達がイメージしやすいような動物や擬音語を使います。「ワニ、サル、ネコ、ダンゴムシやパンパン、ゴシゴシ、スルスル」とかいう感じです。満2歳辺りからそれらの言葉や音に反応してくれるようになり、頭の中でどんどんイメージ(想像)を膨らませながら生き生きと動いてくれます。
「想像し、空想し、先を思い描く力は、子どもが豊かな成長をとげるための大切な要素」(「限界を超える子どもたち」アナット・バニエル著p205)です。「神経生理学の研究によると、私たちのあらゆる活動は、空間における自分の動きを脳の中でイメージすることによって組み立てられている」(同p214)そうです。
赤ちゃんは大人が「歩くのを観察することで脳が『違い』を認識し、その情報を使って立ち上がり歩くという動作を組み立てていく」(同p214)そうです。だからもし周りの大人が犬や猫のように四つ足で歩いていれば、赤ちゃんは決して立ち上がらないでしょうし、周りの大人が皆木に登り木の実を取っていれば、木に登ったりするでしょう。
「空想をすると、子どもの脳に明かりがつき、活気」(同p215)づき、子どもは学びのモードに入ります。「学びのプロセスが子どもの内部で発生するまでは、何を教えたとしてもその子の役には立ちません。」(同p216)
運動遊び指導の時、ある子どもがやりたくない場合、無理にやらせることはなく、基本的に見ていてもらいます。そして「やりたくなったらいつでも入っていいよ!」と言葉をかけておきます。そうすると、大抵の場合その子は、遅かれ早かれ知らないうちに他の子ども達に混じって参加してくれるようになります。周りが楽しそうに動いていると、自分もやりたくなるようです。きっとその時、その子の頭の中にはイメージ(空想、想像)の明かりが灯り、学びのモードに入っているはずです。
限界を超える子どもたち
脳・身体・障害への新たなアプローチ
アナット・バニエル 著伊藤夏子 訳瀬戸典子 訳
出版社: 太郎次郎社エディタス
健康体操講師 北洞誠一先生より
ご投稿いただきました