健康体育~「脳の可塑性」を生かした運動遊び⑨
「脳の可塑性を生かした運動遊び」⑨
「限界を超える子どもたち」(アナット・バニエル著)から子ども自身の力を引き出すための9つの大事なことの9つ目~「気づき」
今回は、脳の可塑性シリーズの最後の大事なこと「気づき」です。
アナット・バニエルの師匠であるモーシェ・フェルデンクライスはATM(Awareness Through Movement)と言う身体訓練法を開発しました。直訳すると、「動きを通した気づき」です。動き(運動)をすることで自分の身体と心がどのように変化するかに気づく手法と言うことです。私が教えているあべこべ体操の元ネタです。教える先生は、動きの姿勢ややり方を言葉で伝え、生徒はその指示を耳で聞いて、自分の身体に合った動きを自分自身で工夫して見つけていくレッスンです。先生は基本的に動きを見せません。慣れてくると、見て行うよりも自身の身体に集中できます。ある程度言葉が理解できれば、小学生でも十分ついてこられるレッスンです。
「大きな変化をとげる子どもは、自分に何が起きているか、まわりで何が起きているかに気づいていて、『観察者』となって自分がしたこと、誰かにしてもらったこと、自分が感じていること、そして予測できる結果との関係性を探って」(「限界を超える子どもたち」p222)います。
少し分かりづらい文章ですが、健康体育での指導場面での具体的な例を挙げます。
巧技台という大型遊具の30センチの高さのハシゴを子どもが渡ろうとする時、最初は怖くて手で棒をつかみ、またいだりしながら通過します。最終的には立って渡りたいのですが、まだまだバランスが取れず、時々足を棒にかけたり床に降ろしたりします。そのうち誰かが床に降りずにハシゴの上を渡り始めると、それを見た子は、自分もそれがしたくなり真似をし始めます。そして試行錯誤しながら手や足の位置や進む時のタイミングを徐々に身につけていきます。そういった自分から物事をしようとする時、子どもは自分の手足の使い方の感覚、ハシゴと手足の触れる感覚、バランス感覚を100%働かせてやり方を身につけていきます。その時、子どもはまさに自分自身に「気づいて」います。
「自分がいま何をしているかが(自己観察によって)わかり、それを続けるかやめるかやり方を変えるか試行錯誤するときその子は気づいています。」(前掲書、p225)そして「『気づき』は混沌とした刺激の洪水に秩序を与え」(前掲書、p224)ます。
このことは、ほとんど無意識で生活している赤ちゃんでも同様です。赤ちゃんが快く体を触らせてくれる時、こちらの手の感触や刺激を感じています。心地よい感じの顔をしてくれるので、多分そうだと思います。反対に自分が心地悪くなると、抵抗したり泣いたりして訴えます。
こちらから、子どもに何か嫌がることをやらせようとしたり癇癪を起こしたりしているときなどは、子どもは全く気づいていません。その子はそのとき、抵抗をすることや自分が気になることで頭がいっぱいで、こちらからの言葉は耳に入らず、また刺激を感じることもなく、結果的に全くその子の学びにはなっていません。
「あなた自身の気づきが子どもを高め、その脳に変化をもたらす力になります」(前掲書、p224)ので、子どもに接する大人の気づきがとても重要なのです。
限界を超える子どもたち
脳・身体・障害への新たなアプローチ
アナット・バニエル 著伊藤夏子 訳瀬戸典子 訳
出版社: 太郎次郎社エディタス
健康体操講師 北洞誠一先生より
ご投稿いただきました