健康体育~「脳の可塑性」を生かした運動遊び➁
「動きに注意を向けること」
前回ご紹介した『限界を超える子どもたち』(アナット·バニエル著)は、彼女自身の特別な支援を必要とする子どもたち(障害児)へのレッスンを通して得た理論であり、それを私は健康体育指導に役立てています。例えば、子どもたちがよく動いてくれる時とそうでない時の違い、楽しそうに動く時と戸惑いながら動く時の違い等々、何故なのか考える時のヒントになります。
著者のアナットは特別な支援を必要とする子どもたちにとって「9つの大事なこと」を提唱しています。1つ目の大事なことは、「動きに注意を向けること」です。
「注意が伴った体験は、神経系の構造と機能に物理的変化をもたらす(マイケル·マーゼニック、脳神経学者)」ことが分かっています。「動き」には二つの種類があり、注意を払わず自動的にできる動き(自動操縦モードの動き)と注意を向けてする動き(注意を伴う動き)です。子どもが新しいことを学び、発達するためには、自分の動きに注意を向けることが必要です。訓練を機械的·反復的に行う時、子どもは大人がやってほしいことを学ぶのではなく、ある動きができない、うまく動けないという実際に起きていることを学びます。これを彼女は「失敗のパターンを学ぶ」と言っています。
だから、ある動きを抵抗している子どもに無理やりやらせることは、子どもは自分の動きに注意を向けておらず、大人に抵抗することや泣いて逃れようとすることに注意を向けているので、全く学びにならないだけではなく、その時の緊張やマイナスの感情が脳に組み込れてしまうかもしれません。
健康体操の日の午後に、職員体操としてあべこべ体操を受けている職員の皆さんは不思議だと思いませんか? ゆっくりと単純な動きを数回~10回繰り返すだけで身体がどんどん変化していき、最終的にほとんどの人の身体が緩んで楽になります。時々気持ち良くなり眠ってしまう方もいます笑。これが起こるためには、静かな心で「動きに注意を向けること」が必要です。心ここにあらずでざわついていると何回やっても身体は変化せず緩みません。子どもの運動遊びも同じで、落ち着きがなくざわついている時は、動きそのものに集中できず楽しめないので、なかなか新しい動きができるようになりません。子どもの場合は、興味を持ち、面白おかしく動くことで「動きに注意が向いて」います。できることを楽しく面白く続けることで、できることが増えてきて、さらに楽しくなり動きのレベルが上がってきます。
限界を超える子どもたち
脳・身体・障害への新たなアプローチ
アナット・バニエル 著伊藤夏子 訳瀬戸典子 訳
出版社: 太郎次郎社エディタス
健康体操講師 北洞誠一先生より
ご投稿いただきました