健康体育~「脳の可塑性」を生かした運動遊び①
初めまして、月に一回子どもたちの運動遊び指導を「健康体育(通称、健康体操)」という名称で指導させて頂いています北洞誠一(きたほらせいいち)と申します。今回園長から原稿の依頼があり、初投稿ということで、私がどんな考えと背景で子どもたちの運動遊び指導を行なっているのかというのを書かせていただきます。
私は元々大学の高校教員養成課程で保健体育を専攻し、将来は高校の保健体育の教師になろうと思っていたのですが、ヒョンなことから大学院に進み、このまま上手く行けば教授のコネで大学の教員になれたらなあと甘い夢を見ていました。しかし、そのためには論文を書き続ける必要があり、修士論文はなんとか提出したものの今後研究職としてやっていくのに、体育指導の現場を知らずに論文は書けないと思っていました。そこにたまたま日本幼児健康体育協会(現NPO法人)の保育園幼稚園の体育指導のお仕事を友達から紹介され、「現場」だということで飛び付きました。子どもだから何とかなると思っていたのですが、全然何ともならなくて、話が伝わらない、思い通り動いてくれない、何をしていいかわからないと大きな挫折をしました。
子どもの頃から、「勉強の仕方や動き方のコツ」を教えてくれる先生に出会った時に伸び、教師になる時もそういう先生になりたいとずっと思っていたのに、それが子どもたちを前にして、子どもたちに楽しく動き方のコツを教えることができず、話も聞いてもらえずだったので、ストレスがたまり情けなさも感じましたが、何とか試行錯誤しながら続けました。それが今思えば、幼児体育、子どもの運動遊びにハマった原因だと思います。何とかしたい、ちゃんと教えられるようになりたい、どうすればいいかとやっていくうちに赤ちゃんのこと、次に進化のことを勉強しなければ、また体育のプロになるには「動き」のことを勉強しなければとあれこれその時に出会ったものを吸収していきました。
そのうちに出会ったのが、今現在私の専門となっている「フェルデンクライス・メソッド」というボディ・ワークです。これはヒトの学習の理論を動きに取り入れて行う身体訓練(改善)法です。訓練と言うと何か厳しいもののように感じますが、「無理しない、頑張らない、疲れたら休む」と言うことをモットーとしているとても緩くて気持ちが良く、理に適った手法です。
一言で言うと、「脳の可塑性」を利用した動きの学習法です。脳の可塑性(神経可塑性ともいう)とは、「脳を構成する神経とそのネットワークは固定したものではなく,脳には自分とその周辺の状況に応じて変化する能力があること。(コトバンク)」です。脳はいくつになっても変われます。特に乳幼児期は、脳が猛烈に成長しているので、変わり方が半端ないです。フェルデンクライス・メソッドは、イスラエルの物理学者モーシェ・フェルデンクライス(1904~1984)が開発した手法です。彼自身がサッカーで痛めて再起不能と医者から宣告された膝を、当時の生理学や治療法等を自学で勉強して自分で治してしまいました。この実践理論を応用して多くの人のトラブルを解決しました。最初はマンツーマンの施術を行う個別レッスンという形でやっていたのですが、その後大勢でもできるように体操のように体を動かすグループレッスンを開発しました。一見、普通の体操に見えますが、ちょっと変わったやり方です。北洞考案の「あべこべ体操」の元ネタとなったもので、幼稚園の職員の方も経験していて、単純な動きの繰り返しで身体が大きく変化していくことを体験されています。
私の運動遊び(健康体育)は、日本幼児健康体育協会創始者の佐藤丑之助先生の創設された西式健康法を元にした健康体育に、「脳の可塑性」を利用したフェルデンクライス・メソッドを融合させていく試みの歴史です。今少しずつ北洞流の脳の可塑性を利用した運動遊びの形ができつつあります。
フェルデンクライス・メソッドの理論を分かりやすくまとめた本が最近出版されました。フェルデンクライスの直弟子であるアナット・バニエル女史の『限界を超える子どもたち』です。彼女は昔から「子どもの天才」と言われており、フェルデンクライス・メソッドの膨大で難解な内容を、最新の脳科学で解き明かし、彼女なりの解釈でわかりやすく解説してくれています。興味ある方は、是非読んでみて下さい。きっと希望の光が見えてくると思います。
次回から、『限界を超える子どもたち』の内容を引用しながら、現場でどのように運動遊びに取り入れているかをお伝えしたいと思います。
限界を超える子どもたち
脳・身体・障害への新たなアプローチ
アナット・バニエル 著伊藤夏子 訳瀬戸典子 訳
出版社: 太郎次郎社エディタス
健康体操講師 北洞誠一先生より
ご投稿いただきました