2022年度 05月の園長便り
「成長について」
“No man is an island.”という言葉を知りました。和訳すると、「人は孤立して生きるものではない」「一人では生きていけない」という意味になるようです。新年度の始まった幼稚園の生活の中、まだ環境に慣れていない小さなお友達が園庭で泣いていた時、年長さんが近寄ってきて「変顔」をしてなんとか笑わせようとする姿がありました。泣いている子が孤立しないように、「一人じゃないよ」と訴えかけるように、自分のできることをなんとかして他者のために使おうとする姿は「変顔」とは裏腹にとても美しく思えました。
乳児期から幼児期にかけて、こどもの成長は目を見張るものがあります。立つこと、歩くこと、食べることや言葉を発することに始まり、身辺自立(排泄・身支度など)、体の動きをコントロールすること(健康体操)も表現活動(造形の日)も、一人でできることが増えていくことはとても嬉しいことです。しかし成長はそれにとどまりません。自分でできることが増えてくると、次にその力を他者のために使うことができるようになります。これこそが、人としての大きな成長なのではないかと思います。冒頭に書いたように人は一人では生きていけません。悩みも喜びも人との関わりの中から生れるものですから、他者のために力を使うこと、そして誰かの役に立ち、他者から喜ばれるようになることは、大きな成長と共に、大きな喜びも伴うものだと思います。こどもが集団の中で生活することの意味を改めて感じることができました。
最近、「タネ」の成長も面白いなと思いました。幼稚園で借りている畑では、既に、大根・カブ・枝豆・空心菜などの種まきをしております。いずれの種も驚くほど小さく、種だけを見たら、どのように大きく育つのかを想像することは難しいと思います。けれども、この種自身はどのように育って何になるのかを知っているのです。大根はより良い大根になろうとし、カブはより良いカブになろうとします。決してカブは大根になろうとはしません。こどもも同じではないでしょうか。ただ純粋に、より良い自分になろうとして、成長しているように私には思えます。その過程において、こどもは大人にいろいろな要求をしてきますし、大人はこどもの行動を理解できない時もあると思います。そのような時に、「こどもの成長する力を信じてあげる」ということは、とても大切なことだと思っています。「待ってあげる姿勢」はこどもに対して「きみを信じているよ」という気持ちを伝えることにもなります。ですから、こどもへの愛をこどもにわかりやすく伝えることにもなります。「こどもの自ら育つものを育たせようとする心、それが育ての心」(倉橋惣三)の言葉が心に響きます。「こどもの要求を聞き過ぎて、甘やかしていては、こどもがダメになる」という心配の声もお聞きすることがありますが、「過保護」といえるほど、こどもの望むことを望むように応えてあげることは実はものすごく大変なことで現実にはない、と児童精神科医の佐々木正美先生は述べられています。甘えさせてあげられる時は、こどもの要求を十分に満たしてあげる、くらいの気持ちでちょうどいいのかもしれませんね。
満たされたこどもの活動は他者へと向いていきます。幼稚園の生活の中で、友達と学び合うことは社会的人間関係を築いていく第一歩となっていきますから、葛藤をくり返しながらも他者のために自分の力を使うことができるようになることを目指したいと思います。”No man is an island.”私たち大人も互いにつながって、こどもの成長する力を信じ、希望を持ってこどもの大きな成長を待てるといいな、と思います。
5月は親睦の時でもあります。共にこども達の成長を喜び合い、楽しく毎日をすごせますように。
(園長 横山 牧人)