健康体育~「脳の可塑性」を生かした運動遊び⑤
「微かな力」
健康体育を担当している北洞誠一と申します。
昨年から「脳の可塑性を生かした運動遊び」と言うシリーズで「限界を超える子どもたち」(アナット・バニエル著)から子どもの力を引き出すための9つの大事なことを連載しています。
今回は4番目の大事なこと「微かな力」です。
クラスの雰囲気がざわついていると、子どもたちは話が聞けず集中できません。また準備もなくある動きを強引にやらせようとしたり、子ども自身が怖いと感じたりしている時などは全身に力が入りぎこちない動きになってしまいます。
「ウェーバーの法則」というのを発見した「精神生理学者のエルンスト・ウェーバーは、刺激に対する人の感覚は、背景の刺激の強さが大きくなればなるほど鈍くなる」(「限界を超える子どもたち」p130)と言っています。わかりやすく言うと、1kgの石を手に持ち、そこに葉書を1枚加えても重さの変化は感じられませんが、何も持っていない手のひらに葉書を乗せれば重さの変化に気づきますね。これは身体的なこと精神的なことの両方に当てはまります。
ある動きをしようとする時や動いている時に、必要以上の「余計な力」が入っていると目的の動きがぎこちなくなります。「体が硬い」と言うのは、余計な力(=緊張)がずっと入り続けている状態と言えます。また心がざわついていると、動きの微妙な違いやニュアンスが感じられません。
私自身は、小学生の後半から、腕立て伏せ・腹筋・スクワット等の筋トレをやり始め、部分的な筋力はついたのですが、それを繰り返すことで「過剰に力を入れる」ことを学習してしまいました。今でもその傾向があります。だから今ではその反省も含めて、他人に(自分にも)「力を抜く」体操を教えています(笑)。
余計な力を抜いていないと、動きの「違い(差異)」が感じられません。人はうまく行かない時、本能的に「力を入れて」難関を突破しようとする傾向があるようです。そして、下手な指導者は「頑張る(=無駄に力を入れる)」ことを奨励(強要)?します。
「感知される『違い』は、脳が新しいつながりをつくり不可能を可能に変えていくための情報です。」(前掲所p141-142)
子どもができないのは、「やり方がわからない(知らない)」からです。その原因はいろいろあるでしょう。子どもがやろうとしない時、怖い時、泣いている時、ケンカしている時は、流れから外れた安全な場所で座って、他の子の動きを見ていてもらいます。そして、やりたくなるのを待ちます。その子がどのレベル、状態にあるかを知る必要があります。その場ですぐできる必要はありません。子ども達ができる限り安心して力を抜いて動けるように環境を設定することで、それぞれの子ども達が落ち着いて「動きの違い(差異)」を感じられる環境を作ってあげることが大切だと思います。
限界を超える子どもたち
脳・身体・障害への新たなアプローチ
アナット・バニエル 著伊藤夏子 訳瀬戸典子 訳
出版社: 太郎次郎社エディタス
健康体操講師 北洞誠一先生より
ご投稿いただきました