2021年度04月の園長便り
「新しい年度の出発点に立っておもう 育てのこころ」
新年度がスタートしました。
この年も皆様と共に、こども達の成長を喜ぶことのできる幸いを感謝したいと思います。
先日、ふとしたことから、ある論文に目が留まりました。タイトルは「幼稚園教育要領の変遷に関する一考察」。2018年に改訂された「幼稚園教育要領」は記憶に新しいところですが、「主体的、対話的で深い学び」など体験学習を軸とした改革は小学校、そして今年度から中学校も同じ流れをもって新たな教育要領が施行され、これからの時代を生きるこども達の教育の指針として用いられようとしています。論文を拝読し、戦後から今までの歩みを振り返ってみると、無償化や子ども子育て支援新制度など、今まさに大きな変化の真っ只中に私たちは置かれていることがわかります。教育要領の改訂は約10年毎に行われておりますが、その一番最初は1948年刊行の「保育要領」になります。戦後間もない頃に、GHQ側委員と倉橋惣三を筆頭に16名の日本側委員とで作り上げられたこの「保育要領」は幼稚園のみならず、保育所や保護者にも役立つものとして編集されていた、とのことでした。驚くべきはその内容で、私が特に注目したのは幼児教育の目標達成に努める場合の留意点です。以下のように記されていました。
「出発点となるのはこどもの興味や要求であり、その通路となるのはこどもの現実の生活である」
「教師はそうした幼児の活動を誘い促し助け、その成長発達に適した環境をつくることに努めなければならない」
まさに最新の教育要領の中で盛んに言われている「こども主体」の内容が70年前のスタート時点で既にあった、ということに驚きました。その後の変遷についても非常に興味深い内容のことが論文には書かれていましたが、紆余曲折あって、この大変革の現代において教育要領の内容が原点に戻ったということはとても意味深いと感じました。
そんな折、新年度を迎えるにあたって職員みんなと年間保育テーマについて話し合いの場を持ちました。そして話し合いの結果「さわってみたい!やってみたい!大好き!を見つけ、みんなで分かち合おう」に決定しました。私は話し合いの途中から不思議な思いでした。なぜなら先生たちと話し合っている内容が「出発点となるのはこどもの興味や要求」という「保育要領」の言葉そのものだったからです。何かに導かれているような、そんな思いがしました。
倉橋惣三は「育ての心」という著書のまえがきに、こんな言葉を残しています。
「自ら育つものを育たせようとする心、それが育ての心である。世にこんな楽しい心があろうか」
こどもの主体性を大切にし、応答的に関わろうとする温かさが溢れる素敵な言葉ですよね。
このような先人の思いとともに、こども達の成長をみんなで楽しんで見守っていきたいと思います。
今年度もどうぞよろしくお願いいたします。
(園長 横山 牧人)
倉橋惣三「育ての心」まえがきの一部より
自ら育つものを育たせようとする心、それが育ての心である。世にこんな楽しい心があろうか。それは明るい世界である。温かい世界である。育つものと育てるものとが、互いの結びつきに於て相楽しんでいる心である。
育ての心。そこには何の強要もない。無理もない。育つものの偉(おお)きな力を信頼し、敬重して、その発達の途に遵(したが)うて発達を遂げしめようとする。役目でもなく、義務でもなく、誰の心にも動く真情である。
しかも、この真情が最も深く動くのは親である。次いで幼き子等の教育者である。そこには抱く我が子の成育がある。日々に相触るる子等の生活がある。斯(こ)うも自ら育とうとするものを前にして、育てずしてはいられなくなる心、それが親と教育者の最も貴い育ての心である。
それにしても、育ての心は相手を育てるばかりではない。それによって自分も育てられてゆくのである。我が子を育てて自ら育つ親、子等の心を育てて自らの心も育つ教育者。育ての心は子どものためばかりではない。親と教育者とを育てる心である。