2020年度03月の園長便り
「幸せでありますように」
今年度の年長さん達は本当にバラエティに富んでいました。ですから、一人ひとりの成長も様々なお友達と一緒に生活したからこそ得られる、多様性に富んでいたと思います。この経験はこれからを生きていくうえで必ず糧となり生きてくることでしょう。体の成長は成長期のこどもの場合、大腿骨など長い骨の端に活発に細胞の増える部分があり、細胞が増えるにつれて骨が長くなり身長が伸びていきます。知能の成長は脳細胞同士が連結し神経の回路が作られることによって伸びることがわかっています。しかし、体の成長は思春期がピークですし、知能の成長は(条件次第で成人後も脳の回路の発達は続きますが)最も活発なのは幼少期です。さらに人は遺伝的な条件による限界を超えることはできません。このような限りのある私たちですが、永続的に生涯にわたって止(や)まない成長もあります。それは人格の成長です。心の豊かさ、他者への思いやり等は何歳になっても成長を続けることができるのです。そして、その土台となるのは「幼少期にしっかり愛された経験である」と、アメリカの発達心理学者エリクソンは言っています。ですから、この幼少期に出会った友達や先生との関わりは豊かな人生を送るための土台ともいえるのだと思います。決して良いことばかりではなかったと思います。けれど、肝心なのはその困難な時に周りの友達や保護者、先生がどのような関わり方をしてきたか、そして「愛された経験」として心に残っているかどうか、が大切なのだと思っています。人生の土台を作る…私たち保育者はこの重要な役目を果たすため、日々研鑽を積み、より良い保育を目指しながらこども達に接しています。しかし、完璧といえるにはまだまだ道半ばです。そんな不完全な私たちだからこそ、こども達の声を聞く耳が常に自分に備えられているか心に留める必要があります。そして「愛が無ければすべては無に等しい」との聖書の言葉通り、愛情を持って全てのこども達に接することを何よりも大切にしてきました。卒園式の日には年長さん達に「卒園おめでとう!」と声をかけると思います。この「おめでとう」は無条件の「おめでとう」です。勝者も敗者もない、この子が生まれて、ここまで大きくなって、本当に良かったという無条件の喜びと感謝です。この想いが溢れるからこそ、卒園式を包むあの独特の雰囲気は創り出されるのではないか、と思っています。
人生は何が起こるかわかりません。突然、昨日までの生活ができなくなってしまうことも起こりえます。不安に押しつぶされそうになる時、自分は不幸だ、と思うことも時としてあるかもしれません。「幸せ」の研究は日本でも最近急速に進んできているようですが、ある論文の中に「衣食住が豊かになることを目指しても幸せにはならない。幸せとは他者のために役に立っていると実感するときに得られるものである」と書かれてあったそうです。また、ある精神科医の先生が多くの患者さんを診る中で、あることに気づいたそうです。それは感謝することのできる人は感謝できない人と比べてはっきり治りが良いということ。他者のために自分の知恵と体を使い、その関わりに感謝の気持ちを持つこと…それが幸せへの道なのですね。スペインのことわざにも「現に手の中にあるものの価値を知る人こそ、幸せに最も近い」とあるとのことでした。
全ての年長さん達にとって、これからの人生が幸せなものであるようにお祈りしています。そして私たちはこの先もずっとあなたたちのことを忘れずにここにいます。変わらぬ愛をもってここにいます。だから、もし、つまずいたときはいつでも戻ってきてください。そして傷を癒し、また飛び立っていってほしいと思います。私たちにとっては、それが幸せなのですから。
(園長 横山 牧人)