健康体育~「脳の可塑性」を生かした運動遊び③
「ゆっくり」
『「ゆっくり」は、識別力を高めるチャンスを増やし、脳が得たものを統合して新しい能力を生み出すことを助けてくれます。』(「限界を超える子どもたち」p87、下線部筆者)
あべこべ体操(フェルデンクライス)のグループレッスンでは、最初「ゆっくり、小さく」動くことを強調します。時にはどんどん動きを遅く小さくし、動いているかどうかわからないほどの動きにしたり、動かずにイメージだけでして行ったりします。普段やっている動きを最初から最後までゆっくり行うことは、普通の速さで動くことよりも難しかったりしますが、意識して「ゆっくり」動くことで、自ずと「注意を向けた動き」になり、その途中経過を感じることができます。
私は、子どもたちに「ゆっくり」をわかってもらうため、話す速さをゆっくりにし、「ゆっく~り🎶ゆっく~り🎵」と呪文?のように唱えます笑。そして「だんだん速く🎶」と話のスピードを上げながら、スピードの変化を感じてもらいます。この変化が子どもたちにとっては、たまらなく面白いようです。声のニュアンスの変化でコミュニケーションをとるとは、書き言葉ではできない対面での醍醐味ですね!
さて「ゆっくり」動いてもらうことは、最近(コロナ以降)になって特に意識し出すようになってきました。以前はよく「忍者のように~しよう!」という言い方で子ども達に言葉がけをしていました。それは指導中、不意に体を動かして人とぶつかったり、乱暴に手足を床にぶつけたりする子が多かったからです。幼少期は、まだ身体の使い方が未熟で、どれくらいの強さで叩くと痛いとか相手を傷つけるとかの加減がわからず、自分の身体や相手を痛めてしまうことが度々あります。「忍者のように」という言葉は、3歳ぐらいからよくわかるようで、「忍者」をイメージさせることで、自然に自分の動きに「注意を向けて」くれます。
そうは言っても回転遊び(前後左右に転がる「受け身」の動き)をする時やコマ遊び(お尻やお腹を中心に回転する)などの時、頭を床でゴツンと打ったり隣の子を蹴飛ばしたりすることがありました。背中が丸まっていなかったり、人との距離感が取れていなかったりするからですが…。どうしたものかとずっと考えていて、はたと気づきました。「ゆっくり」があったと! 「ゆっくり」動けば、たとえ頭を打ったりぶつかったりしても、小さな衝撃ですみ、怪我をせず失敗しながら身体のコントロールの仕方や人との距離感がわかってきます。
「すでに体験ずみのことしか速くできない。何かを習得したいなら、脳がそれに必要な回路ができてこそ、少しずつ速くしていくことができます。何かができないときは、その能力がまだないときです。能力を獲得するためには、脳がより細かな差異をとらえ、無数の新しい神経細胞のつながりをつくり、それが統合されなければなりません。そのチャンスを最大にするためには、取り組みのペースを思いきり落とすことです。(前掲書p90~93、下線部筆者)」
この気づきで、より安全に、より段階的に子どもたちの運動遊びの指導が組み立てられるようになってきました。
限界を超える子どもたち
脳・身体・障害への新たなアプローチ
アナット・バニエル 著伊藤夏子 訳瀬戸典子 訳
出版社: 太郎次郎社エディタス
健康体操講師 北洞誠一先生より
ご投稿いただきました