2024年度 10月の園長だより
「こどもの絵」
新しい園舎が完成しました。
昨年9月に旧園舎を取り壊した時から1年、長かったようで短かったような気もしますが、いよいよの時を迎え、明るい希望を抱きながら、いつ終わるともわからない膨大な事務量と格闘しつつ日々を過ごしております。
私の大好きな先生に荒尾克彦先生という方がいます。芸術家でとっても面白いおじいちゃんの先生です。荒尾先生の作品はどれも、こどもの表情が可愛らしく、愛情を込めて描いたことが感じられるので、本当に素敵です。一昨年のクリスマスの頃、お宅へ招かれました。美味しい食事とワインをいただきながら、「今度、園舎が新しくなるので絵を描いていただけませんか」とお願いすると、「うん。まぁ、いいけど」と受けてくださいました。私は森で遊ぶこども達の絵を描いて欲しかったので森遊びの日に一緒に来ていただき、こども達の遊ぶ様子や森の空間を見ていただきました。そして、月日が経つこと1年3か月、ついに出来上がったとの連絡を受け、取りに行きました。はやる気持ちを抑えつつ、出来上がった絵を見た瞬間…言葉が出ませんでした。わーっと様々な情景が目に飛び込んできたからです。そして〝明るく豊かな森をこども達と一緒に作りながら、いのちを大切にできる心を育みなさい″そんなメッセージを私は感じました。こども達の遊ぶ姿や、様々なストーリーが随所に散りばめられた荒尾先生の絵は、新しい園舎の玄関から入ってすぐの階段あたりに飾られる予定です。ご来園の際には、ぜひご覧になってみてください。
毎週、森へ遊びに行っていますが、時には雨の日もあります。そんな時は中島林業さんの大屋根や成木の家で過ごします。絵具で絵を描く子、ブロック遊びをする子、ブランコをする子、楽器を鳴らす子、雨の中へわざわざ出ていく子…、こども達の活動はそれぞれです。ある時、絵具で使用する水は雨を集めて描こう!となり、あっちこっち雨を集めやすい場所を探しながら絵を描きました。描く絵はもちろん自由ですが、みんなの絵を見て、ふと気づきました。描かれた絵は全部、「雨」だったのです。雨の日のにおい、音、空気、身近に迫る大自然、そんな環境の中、五感で感じながら表現した結果、「雨の日は雨の絵を描く」、なるほど!私にとって大発見でした。また、違う日の雨の森遊びの時、同じように雨の水を集めて絵具で楽しそうに、しかもかなり上手に絵を描いていた子がいました。色鮮やかに雨の線を描き、これは素敵な作品だと思っていたら、突然雨の中へ出ていき、描いた画用紙をポタポタ雨に打たせて、全部流してしまったのです。流れる絵具が途中で混ざり、不思議な模様ができる様子を楽しんだ後、画用紙には薄く全体に広がった様々な色が残りました。私は「あ!」と思ってしまいましたが、その子はとても楽しそうで、残った画用紙を見ながら、「あ、ここの点々は雨が打ったんだ」と嬉しそうでした。荒尾先生にこのことを話すと、「こどもにとって絵を描くということは、何かの作品を仕上げることが楽しいんじゃなくて、描く行為そのものが楽しいんだよ。だから、描き終わった絵には意外と執着しないもんだよ」、と言っていました。そう考えると、描いた絵を雨に全部流してしまう行為は納得がいきます。そして偶然、何かを発見したときの嬉しそうなこどもの目は本当にキラキラ輝いていました。その輝きを私たちはいつも忘れてはいけないと思います。
「こどもとかかわるときに、外から見ていたのとは全く違う世界、こどもと自分との内的な世界が展開する」(保育者の地平/著:津守眞)私たちは保育者です。保育にとって重要なことは、内的な世界を理解すること、と津守先生は語ってくれています。外見で判断し、良い悪い、と人を安易に裁くことのないように気を付けなければなりません。理解してもらえたこどもの目は本当に輝きますし、理解できた時の保育者も本当に嬉しいものです。今月は運動会や親子遠足もあります。こども達、保育者、そして保護者の皆様の目もキラキラ輝けるよう取り組んで参りたいと思います。(園長)