2020年度6月の園長便り
「決断の根底にあるもの」
緊急事態宣言・措置が解除になりました。2月末に臨時休校の要請が出てから3カ月。その間、青梅市、東京都等からの新型コロナウィルス関連のメールは100件を超え、感染拡大防止のための情報は次から次へと溢れるようでした。このような状況の中、何が正しくて、何がベストな選択なのか、判断は極めて難しいものとなります。ですから青梅市私立幼稚園協会、東京都私立幼稚園連合会、日本基督教団西東京教区教会幼稚園連絡会、キリスト教保育連盟、各団体の園長先生方との情報交換もこの期間は特に頻繁におこなってきました。どの園もある程度同じような取り組み(臨時休園・規模縮小の卒園式など)に見えると思いますが、決定に至るまでの考え方はそれぞれに特色があったと思います。どれが良くて、どれが悪いということではなく(どの決断も尊重すべきだと思うのですが)、その中で私は何を基準に青梅幼稚園の行動を決断するべきか、教師達とも意見交換をしながら日々思案に暮れていました。
そんなある日、某牧師先生が「わたしの信仰」~キリスト者として行動する~ アンゲラ・メルケル という本を紹介してくださいました。本の帯には「政治的決断の根底にあるもの」という言葉も見え、これは読むべし…と早速取り寄せてみました。メルケル首相のことは難民危機の積極的受け入れ、新型コロナウィルス対策のスピーチが高評価、程度しか知りませんでしたが…一読して圧倒されました。この本は2018年発行ですが、以下の部分は今の状況を予言しているかのようですし、なんて思慮深い人物なんだと感嘆のため息とともに読み進めていました。一部ご紹介いたします。
(聖書の物語の汚れた病に侵された女性がイエスキリストに救いを求め、癒される場面に触れて)
「人間は努力する必要はない、何か不思議なことが起こるのを待っていればいい、などと主張しないことです。この物語は全ての人が努力しています。娘を助けようとする両親も、彼らのそばにいる親戚の人たちも医者から医者へと訪ね回る女性も。それでいいのです。この物語を読んで、何も試みずにいつか奇跡が起こると当てにしていればいいんだと思うような人がいたら、それは誤解です。(中略)なぜ病を患ってしまったかというような説明のできないこと、説明したくないこと、説明を許されないことがあるということ—それによって私たちには他者をありのまま受け容れる責任が与えられるのです。そのようにして、私たちは謙虚な気持ちを持てるのです—謙虚とは無気力の謂ではなく無限を知ったことから生まれるポジティブで、希望に溢れて生を形成する感覚です。(p.52~p.54)
「家族が自発的に成し遂げようとしていることを、国家機関が肩代わりすることはけっしてできないでしょう。ですから家族には次の二つのものが与えられます。一方では基本法にも定められている国家による保護。他方では、どのように生活するかを決める自由です。」(P.165)
「家族とは社会の中で価値観を育てる場所であり、責任の引継ぎと共生とを学ぶ場でもあります。家族は子に対する親の、そして親に対する子の、生涯にわたる責任を意味します。家族から抜け出すことはできません。家庭では愛が与えられます。そのような愛は国家の機関には要求できません。だからこそ家族を守り、育て、強めることが大切なのです。」(P.180)
何が良いことで、何を求められているのか、分からない日があったとしても、幼稚園と各ご家庭との支え合いの中、共に重ねていく経験を通してお互いが耳を傾けていくことはとても大切だと思います。そのことによって何をすべきか、よりよく理解する希望を持つことができるからです。それぞれの家族が(先生たちも含めて)より豊かに生活できるようにこれからも深く考えていきたいと思います。家族は社会の出発点であるということを胸に刻みながら。
(園長 横山 牧人)
わたしの信仰 キリスト者として行動する
アンゲラ・メルケル著
フォルカー・レージング編
松永美穂訳
新教出版社 2018年10月25日発行